ビジネスパーソンのためのアート鑑賞

数年前、友人に誘われて現代アート展に足を運んだことがある。正直なところ「難しそうだ」と身構えていたのだが、実際に会場に入って驚かされた。同じ作品を前にしても、人によって感じ方や意見がまったく異なる。隣の人の感想に「なるほど、そんな見方もあるのか」と思わされ、アートには一つの正解が存在しないという面白さを知ったのである。

一方で、AIは日々進化を続け、「10年後には多くの問題を解決しているだろう」と語られるようになった。では、人間に残された役割とは何か。それは、まだ誰も気づいていない問題を見つけ出し、工夫しながら取り組むことである。そのときに役立つのが、論理的思考だけではなく、自由に発想を広げる「アート思考」なのである。

AIが得意とするのは計算や分析といった論理的な作業である。しかし直感やひらめき、創造性といった領域はまだ不得手である。ゆえに人間の強みは、アイデアを生み出す力や想像する力にこそあるといえよう。

現代アートと同様に、ビジネスにも「一つの正解」は存在しない。多様な意見や視点が交わることで、新しいアイデアや解決策が生まれるのである。実際に「失敗も挑戦の証」と評価する企業があるほどだ。アートがプロセスを重視するように、仕事においても試行錯誤の積み重ねが次なる成果につながっていく。

アート鑑賞は単なる趣味ではない。新しい視点を磨くトレーニングでもあるのだ。美術館を訪れる機会があれば、正解を探すのではなく「自分はどう感じるか」を大切にしてほしい。その小さな気づきこそが、日々の仕事における発想を豊かにしてくれるに違いない。